第一章第一章 蒼き眼の竜と少年「この間は完敗だったよ」 つい先日遊んでいた二人の会話だった。 「そうか?いい勝負だったけど……?」 「あのタイミングで出されたら、勝てないに決まってるよ」 「あぁ、あれか。ブルーアイズぐらいで大袈裟だな」 ブルーアイズ、それは青眼の白龍と呼ばれる、上級モンスターだった。 「大介からすれば、そりゃ対した事じゃないかもしれないがな、ブルーアイズってアルティメットの方だぞ!」 「どっちにしろアルティメットぐらいじゃないか」 アルティメット……それは青眼の白龍とは異なるモンスターだった。青眼の究極竜という、強さにおいても差は比にならないほどだった。 又、この少年の名は大介という。その力は話だけでも分かるほど、強いらしい。 「またやるか?」 「まさか、学校に持って来てるの……?」 もちろん、学校に持って来ていいなど、有り得なかった。 「意外とばれないぞ」 「へぇ……それより、放課後また勝負しない?」 感心ではなく、呆れた意味でへぇ……と言った。 「さっき勝負しようと誘ったのは俺だぞ……」 結局は、負けなど無関心の少年達らしい。子供らしいと言えば、子供だ。 「でも、今日発売の新パック買ってからね」 「今日発売だっけ?」 「そうだよ……」 どうにも、呆れることの多い少年だった。実際はこちらの方が大人びているのだが、カードではまるっきり逆だった。 「へぇ……これが新パックかぁ……」 こちらは、素直に感心していた。 「お、良いのが当たったぞ!」 「何?どんなのか見せて!」 「勝負が終わったらな」 そういうものの、やはり強さの違いはあるのだ。結果的にはいつも負けているのである。 「じゃぁ、そろそろやるか」 その言葉を合図に、二人は家へと向かった。 先程の短いやり取りが嘘のような真剣な顔で、カードを見つめている。 お互い手の内を知り合った中だからこそ、負けられないのだ。 手札は揃っている。最初に大介が口を開いた。 「俺が先でいいな?」 言うが早いか、ドローをした。 顔を見れば分かるが、決して先程のような会話は無いだろう。 そして、大介は手札から視線を一枚のカードのみに移した。 「よし、洞窟に潜む龍を守備表示で召喚。そして、カードを一枚伏せてターンエンド」 「俺のターンだ、ドロー」 こちらも大介と同じく、視線があるカードに注がれた。 「悪いが、先手は貰う!隼の騎士を召喚!」 攻撃力1000のモンスターだが、2回攻撃できる利点がある。もちろん、それは大介も知っている。 しかし、攻撃力1000のモンスターが攻撃力1300、ましてや守備力2000の洞窟に潜む龍を倒せるとは思わない。 「これだけじゃない。竜殺しの剣を隼の騎士に装備!」 これには大介も驚いた。まさか、一ターン目からモンスターが竜殺しの剣を装備しているのだ、無理も無い。 「隼の騎士で洞窟に潜む龍を攻撃!」 竜殺しの剣の効果、それは攻撃力・守備力ともにダメージ計算を行わずにドラゴン族をバトルフェイズ終了時に破壊するのだ。ドラゴンデッキの大介にとって、このカードの存在は大きかった。 「そして、隼の騎士の効果により、今度はプレーヤーに直接攻撃!」 驚く暇も与えない、凄まじい攻撃だった。良いのが当たった、とは竜殺しの剣だったのだろう。 「なかなかやるな」 決して負け惜しみでないことは口調からして分かる。そこは少年らしさを感じる。 が、やはり竜殺しの剣により700ポイントアップした攻撃力、1700がライフから引かれる。つまり、残り2300のライフなのだ。 「どうだ、すごいだろう」 上から降ってくる声、完全に勝利に酔い痴れていた。 しかし、大介も大介だ。 「これからが、本当の勝負だ!」 そう言って、楽しんでいるのだ。もちろん、純粋な気持ちで。 しかし、すでに少年の頭の中は切り替わっていた。 だが、彼も遊戯王においては秀才らしい。逆転、むしろ竜殺しの剣を利用することまで考え付いたのだ。そして、後は運に頼ることになった。 「俺のターン、ドロー」 目的のカードがあったらしい。しかし、はずしたようだ。だが、これはこれで良いカードだったことは、顔を見れば分かった。 「強欲な壺、発動!」 これによって、デッキから2枚のカードをドローできる。1枚目は目的のカードではなかったらしい。そして2枚目、どうやら今度は目的のカードが当たったらしい。 「仮面竜を守備表示で召喚。そして、魔法カード、リロード発動!」 リロードにより、手札4枚をデッキに戻し、シャッフルした後に同じ枚数引き直す、つまり手札の入れ替えだった。どうやら、これも成功したらしい。大介は実力・運、共に備えていた。 「これでターンエンド」 相手も子供がゆえに、大介の顔に気付いていない。 「ドロー!そして、カードを1枚伏せる」 今更でも、という顔をしながらカードを伏せる。しかし、これも大介の実力を知っての念押しだった。 「隼の騎士で仮面竜を攻撃!そして、プレーヤーに……」 「まぁ、少し待てよ」 「何を今更!」 相手の焦りに対してか、作戦通りなのかは定かではないが、大介は笑いながら言った。彼の性格上、きっと理由は後者に間違いは無いだろうが、疑いたくなるほど、相手も焦っている。 「仮面竜の効果発動!デッキから攻撃力1500以下のドラゴン族を特殊召喚する。俺は仮面竜を守備表示で特殊召喚する」 これでプレーヤーへの直接攻撃は防いだ。普通なら、その安堵が来るはずだ。 しかし、これは途中経過らしい。 「だが、結果は変わらない!隼の騎士で仮面竜を攻撃!」 1ターンに2体も倒した。しかし、結果は変わらず、大介の意のままだった。 「仮面竜の効果発動だ。こんどは黒竜の雛を攻撃表示で特殊召喚する」 わずか、攻撃力800のモンスターを召喚するのに、ここまで時間が掛かっていた。 「結局は雑魚か!」 そうは言いつつも、動揺しているのは見て取れた。 「まぁ、どちらにしても、勝負は見えている。ターンエンドだ!」 それを言ったが最後、そう言いたげな顔で大介は自分の手札を見ていた。 「俺のターン、ドロー!」 いつもより元気があった。それは、逆転が近づいてきたからだ。 「俺は黒竜の雛の効果により、このカードを墓地へ送り、手札から真紅眼の黒竜を特殊召喚!」 これには相手も驚いた。まさか、ここまで考えていたとは思わなかったのだろう。しかし、大介の顔にはまだ何かあった。 「これだけじゃない。魔法カード、スタンピング・クラッシュ発動!竜殺しの剣を破壊!そして、500ポイントのダメージ!」 始めに伏せたカード、それはリロードと仮面竜を考え、セットしておいたスタンピング・クラッシュだった。 「そして、大嵐によりフィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する!」 ここまで来ると、相手もやる気がうせる。しかし、大介のテンションは上がり続ける。 「真紅眼の黒竜で隼の騎士を攻撃!」 攻撃力1000が攻撃力2400に敵うはずも無く、やられていった。もちろん、ライフも1400失われてしまう。 「悪いが、これだけじゃない。真紅眼の黒竜を生贄に、真紅眼の闇竜を特殊召喚!また、効果により墓地のドラゴン族に1体つき、攻撃力300アップ」 洞窟に潜む龍、真紅眼の黒竜、黒竜の雛、仮面竜、仮面竜、の5枚が墓地にはあった。つまり、攻撃力2400に1500ポイント加わった、3900が攻撃力となった。これも仮面竜の時には思いついていたらしい。 「これでも、まだ勝てるか?」 敵のフィールドにはカードが無い。もはや完敗だ。 「参った……」 この二人では結果が見えてる。もちろん、大介の勝利だが。 「御前、手加減しろよ!」 「いいだろ、徹は竜殺しの剣で攻めて来たんだから」 結局、諸刃の刃となったのだった。 こんなやり取りが、勝負では見られない。そんな二人だからこそ、こういった勝負が出来るのだが。 だが、こんな二人にも協力という文字はある。二人で組めば良い。 それは遠いようで、近いものだということは、二人はまだ知らない…… |